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更新日:2025年3月25日
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「スサナの森」
スサナの森
むかしむかし、ずっとむかし。
ある村にスサナの森というところがあったんだと。スサナの森は朝も昼も薄暗くて、それはそれは気味の悪いところだったんだと。
気味が悪いけど、となり村への近道だったので、ある時、村人が走って通り抜けようとしたんだと。ところが、森に入る時は確かに5人いたのに、森を抜けた時には一人いなくなって、見えなくなった人を心配していると、夜になってひょっこり帰ってくるという具合で、不気味なスサナの森は、誰も通らなくなったんだと。
ある日、寺の小坊主が、和尚さんに用事を言いつけられたんだと。
「となり村さこれ届けてけろ。行き帰けえり気ぃつけさいよー、スサナの森は通ってわかんねぇよー。遠回りして行がぃんよー」
小坊主は和尚さんに言われたとおり、森の中を通らずに、てこてこ歩いて行ったんだと。
(おてんとさん気持ちいいごだぁ…スサナの森あっけど、さっぱり怖くおっかなねぇぞ…)
小坊主は、となりの村さ向かっててこてこ行ったんだと。
そしたら、森の方から楽しそうなお囃子が聞こえてきたんだと。
「それそれそれそれ~~」
太鼓や笛の音も聞こえたんだと。
ピーヒャラ どんどん ピーヒャララ~~
(祭りでもあんだべか…)
小坊主はちょびっとのぞきたくなったんだど。そんでも我慢して先を急いだんだと。
「こっちゃ来い。ちょびっと寄ってけ。遊んでけー」
「それそれそれそれ~~」
「こっちが近ぇぞ、明るいぞ。そっちは遠いぞ、おっかねぇぞー。サッサのサ~~~」
歌も聞こえてすっかけられたけど、小坊主はちゃっちゃと行ったんだと。
そうして小坊主はとなり村さ着いたんだと。品物を渡しておだちんももらったんだと。
「ごくろうさん、気っぃつけて帰らいんよー。スサノの森は獅子ススが出っから通んなよー」
小坊主は、来た道をもどって行ったんだと。てこてこ歩いていると、急に黒い雲が出てきたんだと。雨も降ってきたんだと。ゴロゴロ、雷まで鳴ってきたんだと。雨宿りできるところをさがしたんだけど、なかなか見つからなかったんだと。
(なじょすっぺぇ…、雷おっかねぇなぁ…、おっかねぇ~)
小坊主は泣きそうになったんだと。
「こっちゃ来い。ちょびっと寄ってけ。遊んでけ。雨や雷やむまでこっちゃ来い」
ちっちゃいわらすの声が聞こえたんだと。
「やんだ~そっちさ行きたくねぇ~、おっかねぇ~~」
小坊主はわんわん泣き出したんだと。
「泣ぐな、泣ぐな、おっかねぐねぇでば。オレの姿見でみろ。ほら、ちょこっと見でみろ。そっちさ行くぞ」
「やンだ、やンだ。来んな~。おっかねぇから来んな~~~!」
小坊主はますますでっかい声で泣いたんだと。
「ほ~れ、おっかねくねぇべ~。な?さっぱりおっかねくねぇべ~」
小坊主の目の前さ出てきたのは、目ん玉が六つ、ぎろっと光る、見たこともねぇまっくろなでっかいかたまりだったんだと。
「ぎゃー!」
小坊主はびっくりこいて、へたりこんだんだと。
「泣ぐな。友だちになっぺし。泣ぐな。さっぱりおっかねぐねぇぞ」
その黒いかたまりは、小坊主のほっぺたをぺろりぺろりと、なめ始めたんだと。
(喰われる。おれ、喰われる……)
小坊主はまなぐぎっちりとつぶって、じっとしてたんだと。
すると黒いかたまりは、今度は小坊主の鼻水をぺろりぺろりと、なめたんだと。
(塩味にして喰うんだべな……)
小坊主は、もっとまなぐぎゅっとつぶって、いつも頼りになる和尚さんのことを思ったんだと。
「おれば、喰うの?」
「おめは、喰ってほしいすか?」
「喰わねぇでけろ。お寺さ帰してけろ。和尚さんのお使いをちゃんとやらせてけろ」
そう言って、小坊主はまた泣いてたんだと。
「喰わねぇよ、あんまりでっかい声で泣いてるから、もぞこいと思って傘もってきたのさ」
その声を聞いて、小坊主はおっかなびっくりまなぐあけたんだと。
そしたら、子ぎつねが三匹、小坊主の顔をぺろりぺろりとなめてたんだと。
(なして、さっきは化け物に見えたんだベぇ……)
小坊主はほっとして、子ぎつねたちにお礼を言ったんだと。そして、お使いでもらったぼた餅を子ぎつねたちといっしょに食べたんだと。
「友だちになってけろ」
そうして子ぎつねたちは、小坊主にこんな話をしたんだと。
森を通る人に「友だちになってけろ」って近づくと、みんなびっくりするんだと。あんまりびっくりして、わけわかんなくなって歩き回る人がいたんだと。風呂とまちがえて肥だめにはまる人もいたんだと。蹴飛ばされて死んでしまった仲間の子ぎつねもいたんだと。
それを聞いた小坊主は、
「友だちになっから、やたらめったらよそさ声かけんすなよー」って約束したんだと。
そうして小坊主はお使いに行くたびに森の入口で
「スサナの森通っからねー」と声をかけるようになったんだと。
すると、子ぎつねが「コーン」とないて、森のまん中に明るい一本道ができたんだと。お使いの帰り道には、もらったせんべいや餅やくだものを子ぎつねたちと分けあって食べたんだと。
今泉か日辺あたりの話だって。はい、こんでおわり。