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更新日:2025年3月25日
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「笠神様」
笠神様
むかしむかし、二木村ふたきむらであったんだどさ。毎日毎日、雨が降って、さっぱり止まなかったんだと。何日も何日も降り続いて、田んぼは海みたいになってしまったんだと。
やっと晴れて水が引いたと思ったら、辺り一面の田んぼが泥でろだらけになったんだと。
これでは稲がすがれて、米がひと粒もとれなくなってしまうと案じた村びとは、何とか稲を助けようと、田んぼの泥をすくって近くの沼に捨てることにしたんだと。おっきな桶さ泥を入れて、何回も何回も運んで、近くの沼さなげたんだと。
そうしたら、田んぼの泥んこの中に何だかあったんだと。拾って開けてみたら、ぼろ布の中からちゃっこい堤つつみ焼きの観音様が出てきたんだと。なじょしてこしたらものがあるんだか、よくわがんねがったけど、村人は神様が舞い込んだと思ってちゃっこい祠ほこらを建ててお祀りすることにしたんだと。
毎朝拝んで大切にしていたら、その年は豊作だったんだと。ありがたくてありがたくて、また一生懸命拝んでいたら、夢枕に観音様が現れたんだと。
「わたしは白山大権現。十一月八日がお祭だ」と告げたんだとさ。
そん時、観音様がくるまれてた布があったのことば思い出したんだとさ。そうして洗ってみたら、『文政八年十一月八日』と書いたのぼり旗だったんだとさ。
村びとはたまげてしまって、その日は赤飯炊いて、お供えしたんだと。
そしたら神様喜んで、また夢に現れて、こんなふうにお告げしたんだと。
「めんこくしてやっからね」
村びとはわけがわからないまんま何日も過ぎたんだと。
「神様、なんであんなこと言ったんだべな…」
そしたある日、村にめんこい娘がいたんだと。なんだもなくめんこいもんだから、でっかい家さお嫁さんにけさいんって望まれたんだと。ところが、嫁入りが決まってから、なじょしてだかわかんねぇけど、顔も身体もかさこできて、かゆくてかゆくてひしゃまして、いっぺぇかっちゃいたんだと。そしたら、いたましいこと、めんこい顔がみだぐなしになってしまったんだと。娘はがっかりしてしまって泣いてたんだと。
父ちゃんも母ちゃんも心配しんぺで心配しんぺで、「なじょしたらいかんべぇ」って困りはてていたんだと。
「家の神様拝んでみたら治っぺか。めんこくしてやっからって言ってたっけなぁ…」
そんな独り言を娘は聞いていたらしく、藁をもつかむ思いで笠を深々とかぶってこっそり拝みに行ったんだと。
そしたら、なんと次の日にはすっかり元のめんこい顔にもどっていたんだと。
娘は喜んでお礼にお人形さんを作って、そこっとお供えしたんだと。
それから、いつからか「かさぶたの治る神様」ということが伝わって、時々こっそり拝みに来る人がいるんだッつうよ。
今でもニ木の笠神には祠があって「笠神様」って呼ばれてるんだと。
かさぶたできたらば、あんたも拝みに言ってみさいん、治っから。
はい、こんでおわり。