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第十八回 ヤマハギ

2024年8月18日

高森周辺、そして泉パークタウンは、かつて七北田村の中心部から北西に広がる七北田丘陵と呼ばれる小高い丘が広がっていた地域で、高森辺りには立田山と呼ばれていた小さな山があって、その中に高森と呼ばれていた地域があり「高森」の名がついたとのこと。

 その状況が示すように団地造成後も、立田山とその周辺の自然豊かな堤と里山が、堤と公園として幾箇所も残されました。その中から、高森市民センターの南と北に位置する「修景公園」と「高森東公園」の豊かな自然の様子をご紹介します。

高森東公園・修景公園の四季 第十八回 ヤマハギ

古より人々に愛されたハギで秋の七草のひとつ 山火事を辛抱強く待ち続ける

英名:BushClover

 

北海道から九州まで日本各地の日当たりのよい山野に生える落葉低木で、高さ2m程になります。葉は3枚複葉…3枚の小葉でセットになって葉柄より一枚葉のように出ている葉…で、小葉はいずれも楕円形です。秋に咲く淡い紅紫の花は、派手さのないところが万葉の時代から好まれて観賞するため、庭園や公園、川岸などに植栽され、それが広がるなど、8月花の時期に多く見つけることができます。花期は8月から10月と長く、一つの株に注目してもいつ満開なのかわからないほど。9月に実る果実は豆果で倒卵形、中に一個の種子が入っています。

 

ヤマハギは、万葉の時代から人々の注目が高いからでしょう。万葉集の中で花を詠んだ句の一番は、サクラ(桜)でもウメ(梅)でもマツ(松)でもなく、ハギなのです。その数は141首にもなります(数える基準で多少の誤差はありますが一番は変わらないそうです)。後述しますが、花の時期が長いこともその理由なのではと推量できます。だからなのかは定かではありませんが、低木の樹木に分類されているにも関わらす、ハギが秋の七草に登場します。

 みなさんもしかして、七草のハギは、葉ハギ類のハギと思っていませんか。本当はこのヤマハギの葉とのことです。ちなみに秋の七草は、オミナエシ カワラナデシコ キキョウ クズ ススキ フジバカマ ヤマハギの七つです。 
 

 ヤマハギの葉は互生して、3小葉からなる複葉です。クローバーのように丸みがあり、薄い葉です。頂小葉は長さ1.54cmの楕円形で少し大きめで、比べて丸みを持った葉が両脇に付きます。葉の縁はギザギザの無い全縁です。小葉の中心を二つに分けるように脈がはっきりしているのも見分けの助けになるでしょう。また葉の頂点で微妙にへこんでいるのもヤマハギの葉の特徴です。
 

ヤマハギの花は7月から10月にかけて咲く花で、長さ1115mm、形はマメ科の特徴である蝶形花で、葉腋につく複総状花序に2個ずつらせん状につきます。5つの花弁からのつくりで、頂頭部に大きな旗弁が一枚上から覆うようにあり、左右2枚の竜骨弁を、翼弁が挟み込むように咲かせています。翼弁が濃い紅紫色で旗弁や竜骨弁が少し淡い感じの色です。花序の絵も長く、10輪ほどがまとまって咲いているように観えます。

雄しべは10個でうち9本は根元で合着しています。雌しべ1本とともに内側に曲がるも左右2枚の竜骨弁の内側に、二枚貝の中で守られているかのようにあります。ハナバチ類が花弁をぐいぐいとこじ開ける様に蜜を吸いに来る際に、体中に花粉まみれとなり、次の花で受粉される仕組みで次世代へ命をつないでいます。開花してすぐは右上の様ですが、しばらくすると、ハナバチらのせいと思われ雄しべ雌しべが観えてきます。左下の写真がその様になります。

 

 ヤマハギや、同じ萩の仲間で仙台ではおなじみのミヤギノハギらは、花期が長いことが特徴です。よって満開の時期がはっきりしないまま花が散ります。散り方は花弁ごとポロポロ落ちて廻りはまるで絨毯のように積もります。「零れ萩(こぼれはぎ)」と表現され、俳句の季語にもなっています。積もっていても樹の方に目をやるとはまだ蕾があるなど長く楽しめます。

 ヤマハギは日当たりがよくて水はけのよい場所を好みます。南斜面や小径の北側に陽を受けて生長しています。日あたりが悪いと花芽が付きにくいそうです。ヤマハギはマメ科の植物と紹介しました。土中の根には、共生する根粒菌がいるため栄養分のチッ素が長く供給されるのでしょう。十分吸収して、痩せた土地でも問題なく生育します。花期の長いのはそんな援護があるからとのことです。 


 果期は1011月で、果実は長楕円形の約1 cmの豆果です。熟しても裂開せず、網状の脈があり、中には種子が1粒実ります。密に毛があり、網状脈があります。種子の長さは34㎜です。

 

完熟しても果実が開かないのには理由があります。実はヤマハギは、山火事を辛抱強く待ち続ける植物でもあるそうです。山火事が起きると、ハギが芽を出す。しかし、樹高2m程度しか成長できないハギは、他の樹木に追い抜かれるので、天下を取れるのは数年間だけととのことです。ハギは、大量の種子を地表に落とします。乾燥とともに開裂するといった仕組みをもっていません。落下したハギの種子は非常に堅いので、簡単には発芽せず地中で眠り続けるとのこと。

そんな状況下で、山火事が起きると、地中に眠っていた種子(休眠種子)にも熱が伝わり、ハギが芽を出す引き金に。実験では、ハギの種子は、80100℃の湯に浸すと発芽が促進されることが確かめられているそうです。周りにライバルとなる植物がいなくなる状況下で、発芽し力を発揮するといった次世代戦略なのでしょう。

  • 左:ヤマハギ、右:ミヤギノハギ

 ちなみに、仙台ゆかりのミヤギノハギは、花の長さが15mmと長くハギの中で最大の大きさ、見た目でも優美さがあります。花序が垂れ下がるのが特徴です。葉が細長いことでも区別できると思います。仙台市鶴ヶ谷の公園で植栽されている様子は下のようになります。

   最後に、万葉集に一番読まれている萩(ヤマハギ)を詠った句を紹介します。萩は女性を象徴させているとのこと。ちなみに男性は鹿だそうです。

万葉集 第十巻:2252 作者不明

 

■原文 

秋芽子之 開散野邊之 暮露尓 沾乍来益 夜者深去鞆

 

■よみ 

秋萩(アキハギ)の 咲き散る野辺(のへ)の 夕露(ゆふつゆ)に 濡れつつ来ませ 夜()は更けぬとも

 

■意味

萩の花が咲きこぼれる野辺の道を夕露に濡れながらいらして下さい。夜は更けていても。

 

・・・恋歌です。女性が、愛する人を誘う歌です。恋焦がれる女性が、ある殿方へ夜這いに来てくれまいかと、潔くも大胆に読んでいる句です。大通りを避けて、わからぬように狭い小径を来る際には、夜露に濡れたヤマハギを避けるように来て濡れてしまうでしょうと、殿方に配慮しながらも、どうかおいで下さいと。お待ちしていますと。あなたのいない夜をどう過ごしたらよいのかと・・・送った歌になります。咲きこぼれるほどにハギの花が咲く…で、潔よくも自分をアピールしているようにも読めます。

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