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更新日:2025年3月25日
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高森東公園・修景公園の四季 第九回 クリ
高森周辺、そして泉パークタウンは、かつて七北田村の中心部から北西に広がる七北田丘陵と呼ばれる小高い丘が広がっていた地域で、高森辺りには立田山と呼ばれていた小さな山があって、その中に高森と呼ばれていた地域があり「高森」の名がついたとのこと。
その状況が示すように団地造成後も、立田山とその周辺の自然豊かな堤と里山が、堤と公園として幾箇所も残されました。その中から、高森市民センターの南と北に位置する「修景公園」と「高森東公園」の豊かな自然の様子をご紹介します。
高森東公園・修景公園の四季 第九回 クリ
秋の味覚を代表する果樹 3重の守りで次世代へつなぐ
英名:chestnut
クリといえば、秋の味覚を代表する果樹。現在だけでなく、農耕が始まる以前の古代には重要な食糧とされ、その名は「古事記」にも登場するなど、古の時代から人々に広く用いられ愛されて食されてきた果実ですよね。三内丸山遺跡からもたくさん見つけられ、秋の時期には主食となっていたようです。修景公園・高森東公園でも白い花が咲いていました。
クリは、北海道南部から九州まで広い範囲の山野に自生、枝がよく分枝して大きな樹冠をつくり高さ15~20mほどになる落葉高木です。
クリの葉といえば、表面は濃緑色で光沢があり、主脈の両側に何本もの側脈が主脈を中心に対にきれいに並び、縁には鋭い鋸歯が、先端の針状になっていて独特の形状となっています。葉身の長さは7~14cm、幅3~4cmの狭長楕円形です。よく似たクヌギの葉とは、その色合いが異なり、クリの葉のトゲは緑色なのに対して、クヌギは先端の色が抜けていることで見分けができます。
葉の縁の鋸葉にある針状のものをアップして観るとなんと葉緑体が確認できます。葉の一部なのです。トゲ状のものが生成されているのではないことがわかりました。これに昆虫の撃退能力があるかは定かではありませんが・・・人の手に刺されば痛いです。
クリは6月に花を咲かせます。日照条件の良い場所に育っているなら、クリの樹木全体が白くなるほど雄花をつけます。遠くからでも、左上の写真ようになります。クリの木がそこに在ると確認できるほどです。ブナ科の落葉樹・・・簡単に言うとドングリの実がなる樹の中では、最も遅い時期の開花である点でも、あの樹はクリなのではと思わせてくれます。花は、雌雄同株で花びらを持つタイプではなく穂状に咲きます。右上の写真のように、新枝の葉の脇から長さ10〜15cmの尾状花序をやや上向きに出します。
雄花はクリーム色の花で長さ20cmほどの雄花序の様で全部開くことで穂状に垂れ下がり、雄花の雄しべは約10個ほどで、花被の外に突き出ているのが分かります。
クリの木の花のにおいを感じたことがありますか?その多くは圧倒的な数の雄花から発しています。青臭いにおいというよりも、イカが腐り始めた際のにおいと例えられ、ほかの花では、嗅げないにおいです。人間にはお世辞にも良い香りとはいえず、むっとする匂いです。
雌花は、緑色の球形、先ほどの上向きの尾状花序の根元に1個から数個、イソギンチャクのように花を咲かせます。花の根元には後にイガクリに変わっていく総苞(若いいが)の中に3個ずつ入っている。総苞は花時には直径3mmほどです。下真ん中の写真が、雌花が終えて少し経った頃の写真です。雰囲気が伝わるでしょうか。また、3個づつ入っているのが後にクリが3個かたまっている姿になります。その総苞から先端が鋭い卵状披針形の鱗片に覆われています。
雌花の花柱は長さ3mmほどの針状で、9〜10個あり、総苞の外にとびでています。この10本ほどの触手…飛び出た花柱で花粉を捉えて実ります。つまり、風を利用して雄花が発する花粉を受粉している風媒花となります。前段で「イカが腐り始めた際のにおい」にふれました。人間にはそう感じさせるんですが、昆虫たちには全く別です。多くの小さな昆虫たちが雄花に、さらには雌花に集まり、受粉を助けていると思われます。他のドングリ類も匂いがないわけではありませんが、この圧倒的な臭いはクリだけ持つ次世代への命を繋ぐ戦略です。垂れ下がっている雄花で誘い、その花穂の根元に雌花を咲かて昆虫をいざない、受粉を風媒花よりもより確実なものにするのです。
花の時期も後半になると、クリの木の下には雄花序だけが、雌花の先で外れて沢山落ちています。どうしてなのか調べてみました。すると…役目を終えた雄花の花序は、花序の手前の雌花は受粉が終わったとして、無駄花となるのでしょう。無駄に栄養を雄花に流れないように離層して落としてしまうとのことです。しっかりと成長の過程で仕組みとして組み込まれているのですね。感心します。
クリの周りの針の様の「毬(イガ)」を含む覆いの部分全体を「殻斗(カクト)」と言い、書きます。扁平な球形で、外面に長さ1cmほどの刺が密生していますよね。中のクリの果実が熟すると、樹からイガのままで落ちたり、4つに割れながら落ちたりしています。もともとイガはなんなのか?もうお分かりですね。前述のように「苞葉(ほうよう)」と呼ばれる部分で、蕾を包むように葉が変形した部分で、雌花が受粉したであろう段階からすでに針状になっていました。雌花が受粉後に時間経つと、肉眼でも将来イガになるだろう小さな苞葉もその時確認した通りです。コナラなどの場合は帽子といわれている分になります。そしてカクトは枝に付いている時その多くは、3つずつが接近して付いています。それも前述のように、ひとつの雌花に3つずつ苞葉があったからです。
中の果実は、「鬼皮(おにかわ)」と呼ばれる硬い皮に包まれています。その先端にはひげのようなものが付いて、これはめしべの名残です。この鬼皮は、単に「皮」と呼んでいますよね。実はあれは「果肉」の部分で、中の食べている部分は「種」に相当する部分となります。つまり、皆さんは栗の種をおいしく食べている、ということになります。
では、イガの役目は何なのでしょう。それはまだ成熟していない、次世代へ命をつなぐ果実が食べられないためと考えられています。コナラなどの実と違ってタンニンが含まれずにそのまま食べることができますよね。イガがもしなかったら、動物や野鳥がこぞって集まる果実になると思います。イガは“身を守る働き”、いやあらためて“実を守る働き”をしている、となるようです。
整理すると、クリの防御は、
- カクトに密生するイガの突き刺すぞといった防御
- 鬼皮と言われる固い皮
- 最後に鬼皮の内側に渋皮で覆われている
それら、三重の防御を持っています。強力ですよね。でも、クリを拾ったり、それをゆでたりしようとした方なら出会っているでしょう。鬼皮に空いている小さな穴、そして出て来た丸っこい幼虫に。あれは、クリシギゾウムシの幼虫です。秋に成虫は、クリに卵を産み付けます。イガの防御をすり抜けて。ゾウムシと言われれば、その名の通りその長い口…口吻が特徴です。オスが3.5mmほどに対し、メスが持つ8mm程の長い口吻を使って、イガをもろともせず、栗の実の渋皮付近まで穴を開けて、穴の底に卵を産みつけるとのこと。おいしいクリを食べた幼虫は、後に実が落下すると、栗の鬼皮に3mm程の穴を開けて出て地中に潜ってしまうとありました。
クリシギゾウムシは、クリにとっても、クリ栽培農家にとっても天敵とのこと。天然のクリは間違いなくほとんどのクリにこのクリシギゾウムシの幼虫が育っています。採集したクリは水につけておくと羽化していれば出てきます。浮いているクリは中身が食べられているのでごみ箱行きです。そのあとは陰干ししましょう。羽化していないと思われる場合は、80度くらいのお湯に1分ほど入れて死滅させましょう。クリの風味を損なわない温度です。クリシギゾウムシの幼虫に気づかずにそのまま食しても害にはならないとのことです。考えてみてください、生まれた時からクリの中でそれしか食べていないのですから…。クリシギゾウムシに負けないで天然のクリもおいしくいただきましょう。
以前、あるセンターの傍で栗の大木があり、実りの季節になると近くの年配の方が毎朝栗拾いに集まっていました。私の経験では、防虫していない天然のクリの場合、採集したクリの内、半分ほどは、クリシギゾウムシの幼虫が中にいると気づきました。さらには、気づかないだけでもっと多いのかもしれません。でも気にせず、栗ご飯にしていただきました。自然の恵みに感謝して「ごちそうさまでした」。