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更新日:2025年3月25日
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真美沢公園の四季 第四十九回 フジ
真美沢公園は、以前あった八乙女の広域の水田地帯に向けて3段のため池があった里山が連なる地域に、仙台市北部を住宅地として団地が切り開かれた中で里山とため池といったセットで残されたと思われます。最後まで残されたため池の水を利用していた水田も商業地や住宅地に変わり、里山とため池が、自然豊かな地域資産として残されています。
第四十九回 フジ
古より愛され詩に詠まれた、風に揺らぐ薄紫のベール
英名:Japanese wisteria
フジは、本州〜九州の林縁や明るい樹林内に生えるマメ科の落葉性のつる性植物です。自生のフジは、発芽した後に匍匐枝によって林床を這い、宿り樹を探ります。林縁や林内で他の木や岩に絡みついて育ち樹冠にまで達します。しがみつくべく褐色の短毛を密生するが、後に無毛に変わります。樹皮は灰褐色。つるの巻き上がる方向で、ノダフジ(野田藤)とヤマフジ(山藤)に大別され、ノダフジは蔓が上から見て右巻き、ヤマフジは左巻きに巻き上がります。古くはノダフジをフジと呼んでいたが、今年朝ドラで話題の植物学者の牧野富太郎氏が両者を区別するため、フジをノダフジとしたとのこと。単にフジという場合は両方を指します。
フジという名の由来には、房になって長く垂れ下がる花の様子を、古の時代には房が揺らぐ様子を藤波或いは藤浪と表現しています。「吹き散り」または「房垂花(フサタリハナ)」と呼んで、それらが転訛してフジになったとする説が風力です。
葉は互生。長さ20〜30cmの奇数羽状複葉です。蔓から互い違いに生じる小葉は先の一枚の葉を先頭に5〜9対の小葉で構成されて一枚の複葉となります。小葉は長さ4〜10cmの長楕円形または狭卵形でギザギザの無い全縁で、波打っているように観えます。春先の若い芽は銀白の産毛をまとったような雰囲気だが、赤みを帯びた若葉の時季を経て花が終わる頃には、長さ4~10センチの細長い卵形に成長します。ノダフジに比べるとヤマフジの方が質厚だが、葉の数は少ないとされています。
あまり知られていませんが、秋には葉は黄葉(黄色い色の葉の紅葉)陽の光に照らされてと見ごたえのある黄色に変わります。鑑賞期間が短いことから観られたら貴重な体験になりますよ。絶対魅了されます。ちなみにフジの若葉は鮮やかな黄色を染める染料として使われるとのこと。
フジの開花期は4~6月で、30~90センチほどの花房が垂れ下がります。今年は、サクラが2週間ほど早かったように、フジも4月中頃から、紫の花を見かけています。宿木の幹に撒きつくように伸びる枝のその先の細枝先に長さ20〜100cmの総状花序が垂れ下がり、長さ1.5〜2cmの紫色の蝶形花が多数つきます。その垂れ下がる長さは、100cmを超え、花数も100を超えるものも珍しくありません。
花房を構成する小花は、マメ科の典型的な蝶形で両性花、長さは1~2センチ。花弁と萼は5枚ずつあるが、1枚だけ上部に立ち上がる大きな花弁(=旗弁)が目立ちます。旗弁にある黄色い模様は、花粉を運ぶ昆虫を誘導しています。その花弁の基部に蜜腺があり、それを目当てに集まる蜂らに花粉を擦り付けて受粉を手伝わせています。
その下方には、側面にある花弁で翼弁と、下面のボート状で中に雄蕊や雌蘂を納める竜骨弁があります。長さが同じで長さ15-20mm、やや長い爪状突起がある。花柱の先の雌しべと雄蕊は10本あり、左右2群に分かれるが、旗弁の側の1本は離生し目立たせています。花柱を雌しべが丸く囲むように位置していて、ハチらが蜜を吸いに花に来ると、雄しべと雌しべが触れる仕組みとなっています。これもしっかりと受粉させる工夫と思われます。
視界に入る何本のもスギやコナラなどの宿木の林から開花した房が、長く垂れさがり、藤色に咲く開花期の幻想的な風景は、日本人だけではなく、多くの外国人観光客をも魅了するとされています。人工的な藤棚ももちろん綺麗ですが、山野の藤の花を観ると厳しい環境の中で抜き出て咲いているのかなとの思いも重なって感動します。
10-12月に、花の後にできる果実は豆果で垂れ下がり莢の形になります。その長さ10〜20cm、長いと30cmに成長、表面にはビロード状の短毛が密生します。晩夏~初秋には堅い果皮が乾燥するにつれて黒褐色となります。その豆果(莢)の果皮は厚く、熟すると木質化してかたくなります。その中には、種子は直径1センチほどの扁平した円形の黒い種子が数個実ります。
冬になって乾燥した莢の左右の果皮は2片に裂けます。枝豆を食べる際に分かれる2片のイメージです。それぞれの果皮が乾燥によりねじれて、「バ~ン」と音を立てて破裂し、その際に種子を飛び散らせる様で散布する仕組みです。種子は円形で扁平、直径11〜12mmで、褐色で光沢が観られます。多くのマメ科の果実がそうであるように、煎れば食用あるいは薬用(緩下剤)になるとのことです。
はじける音を聴きたいなら、晩秋に藤棚でじっとねばって観ましょう。運が良ければ聞けます。意外に大きな音です。
フジの蔓(ツタ)は丈夫で簡単に切れないことで知られています。「葛藤」の言葉は、よく観れば、フジが使われています。同じようにツタになって成長する「葛」との熟語で、フジとクズ(葛)が絡み合ってどうにもならない様として使っていますね。改めて納得です。今では工業系のロープが主流ですが、この特徴を生かして、吊り橋や漁網、山登りを助けるロープなどに使われていたとのこと。
最後に、古より愛されたフジ…万葉集から藤浪を詠んだ一句を。
万葉集 第十八巻 歌番号4042番
原文:敷治奈美能 佐伎由久見礼婆 保等登藝須 奈久倍吉登伎尓 知可豆伎尓家里
作者:田辺福麻呂(たなべのさきまろ)
よみ:藤波の、咲き行く見れば、霍公鳥(ほととぎす)、鳴くべき時に、近づきにけり
藤の花が波のように次から次へと咲いてゆくのを見ると、いよいよホトトギスが鳴く頃が近づいてきましたね。…と、春から初夏へ季節の代わり過行く時間を、古にも季節の移り変わりを優雅に楽しんでいたことがわかります。