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更新日:2025年3月25日
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真美沢公園の四季 第四十二回 タチツボスミレ
真美沢公園は、以前あった八乙女の広域の水田地帯に向けて3段のため池があった里山が連なる地域に、仙台市北部を住宅地として団地が切り開かれた中で里山とため池といったセットで残されたと思われます。最後まで残されたため池の水を利用していた水田も商業地や住宅地に変わり、里山とため池が、自然豊かな地域資産として残されています。
第四十二回 タチツボスミレ
開花後も、これでもかといった数々の戦略で次世代へ命をつなぐ
英名:無し
日本全土の人家付近のやぶや道ばたから山地まで、ごくふつうに生える日本を代表するスミレです。垂直分布も幅が広く、本州中部では海岸から亜高山まで観られます。花の頃の茎は高くとも10cmほどだが、花の後高さ30cmほどに伸びます。葉も、花期の葉は長さ約2cmの卵形で、花の後2倍以上の大きさになります。その理由は後半に。
真美沢公園で、昨年3月にもタチツボスミレを観つけました。日本のスミレ属は種類が多く、さまざまなものが各地に見られます。真美沢公園内でも3種類ほど観察できました。花がほぼ同じ時期に見られるため、混同して扱われている場合が多いようですが、日本を代表するスミレが、タチツボスミレであるという。
タチツボスミレは和名では「立壺菫」または「立坪菫」と書き表します。スミレはその花の形が、後ろの距の形も含めて、大工さんがかつて鋸を引く際など真っすぐに線を引くのに使っていた墨入れ(墨が入っている壺のこと)に似ているので、古い名前は「スミイレ」と呼ばれていたものが、その後「スミレ」という名前に変わっていったとされています。
地下茎は短く、わずかに横に這い、古くなると木質化つまり茶褐色になるという。根出葉は細い葉柄があって、葉身はハート形になります。葉にはあまり艶がないのも特徴。花の頃の茎は高くても10cmほど。トレッキングなどで歩いていても、気づかずに通り過ぎているかもしれませんよ。花の後高さ30cmほどに伸びます。花期の葉は長さ約2cmの卵形で、花の後2倍以上の大きさになります。
花期は3月上旬から5月下旬。花茎は葉の間から出て立ち上がり、花は典型的なスミレの花の形の、5つの花弁からなる左右相称花で、先端がうつむいて花を付けます。花弁は丸っこく、花色は薄い紫が普通です。通常は薄紫色の花だが、まれに白い色のシロバナタチツボスミレが観られることもあるといいます。
タチツボスミレに限らず、スミレの花の特徴に、花の後ろに突き出たポケットのかたちがあります。これは「距(きょ)」と呼ばれている構造です。これは花の後ろに突き出たポケットで,花の入り口からは少し奥に位置していいて、その中に虫の好む蜜腺があります。距の中に口先が届く虫でないと,手に入らないことになります。
スミレの戦略は、その蜜を吸う際に、雄しべと雌しべにふれてもらい受粉を完了してもらうことにあります。口の長い生き物,例えばチョウでは、雄しべや雌しべに触れることなく,蜜を吸われてしまい、スミレにとっては望まない客となります。ターゲットにしている虫は,口の長いアブやハチの仲間となります。それらの虫が来なくなれば、受粉の機会を失い,種が出来なくなります。
花の咲かせる時期の背丈が低いのは、その望まない蝶ではなく、アブやハチをターゲットにしているから低くて良いからと思われます。次の世代に向けてしたたかに周到に準備しています。
タチツボスミレには、花の位置が低いために目立たないゆえに、アブやハチが来ずに受粉しないことも。でも、タチツボスミレはしたたかです。その状況下でも種を作る秘策が残されています。・・・それは「閉鎖花」を作るという秘策です。イチジクの花が、その筋のみなさんではよく知られている閉鎖花を持つ種なのだそうですが、私も初めて学ばせてもらいました。
閉鎖花とは,花を開かずに,自分でまさに閉じた蕾の中で自家受粉し種子を作ってしまう花です。その閉鎖花は、4月に花を咲かせた後も,夏から秋までの間に,せっせと閉鎖花を作り,次世代へと果実を、その中の種子を作っているとのこと。現代の言葉を借りれば、「自らクローンを作り続けている」、といった具合でしょうか。
受粉した花も、閉鎖花も、そのあと、実を抱きます。実は茎の先で垂れて下を向いたまま熟していきます。そして、裂開する直前に実をもたげ上向きに3つに裂けます。3つのボート上にたくさんの種を抱いた様子もスミレの特徴です。種が熟すと果実は大きくなり、乾燥して鞘の閉じる力も利用して,ボートから漏れるように、一粒一粒種をパチンとはじき飛ばします。まるで乾式の自動発射装置です。その際の飛行距離は長ければ3mにもなるといいます。
ここで、冒頭の答えです。はじくからこそ、10cmの高さでは遠くにはじけません。30cm前後に茎を伸ばして、その先ではじくことで、より遠くに飛ばすことが可能になるのです。
スミレの中もの次世代へ命をつなぐ戦略はまだあります。ばら撒かれた種には,これも春植物「スプリングエフェメラル」の特徴である、エライオソームというアリが好む小さな「おまけ」の餌がついています。上の写真の白い部分になります。アリたちは喜んで種を運びます。巣まで運ぶ途中で、エライオソームだけを噛み切って巣に運び込みますが、種の部分は途中のいずれかで残されます。こうして,種は落ちた位置からさらに運ばれそこで芽を出す。スミレのあの手この手で,たくさんの種子を作り,それを広く散布していく戦略は「お見事」・・・いやもっとですね。参りましたの一言に尽きます。
タチツボスミレに限らず,スミレの仲間は,都会にいる虫に受粉してもらったり,閉鎖花を作ったり、アリにも運んでもらいながら,したたかに次の世代へ命をつないでいます。